文鳥物語 ふたりの間にある愛

私は6歳の文鳥。今年で7歳になる。飼い主は最近、ずっと部屋にいる。以前の飼い主は「会社に行ってくるね!チュッ。かわいいよ……ちゅき!バイバイだよ~。いい子でね」などとうすら寒いたわごとを言い、薄情にも私を置いて部屋から出て行ってしまう毎日だったのだけれど、ある時から「会社」とやらに行くのをやめたみたい。飼い主曰く、私の餌代を稼ぐために会社に行っていたらしいのだけれど……会社に行かなくなってからも餌はちゃんと出てくる。だったら行く意味なかったんじゃないの、会社ってやつ。

そんなわけで、私と飼い主は毎日二人きり。生活は愛でいっぱいになった。ずっと一緒。大好きな、大切な飼い主。私が呼べばこちらを振り向き返事をする。たまに呼びすぎて怒られちゃうときもある。「今ねっ、おちごとちてるんだよ~!だから静かにね。シーッだよ!」また寒い赤ちゃん言葉だ。おちごととは「お仕事」らしいのだけれど、それが何なのかは「会社」同様分からない。もしかしたら私の毎日食べる餌と関係のあることなのかもしれない。

「お仕事」と、私との愛だったら飼い主はもちろん愛を優先すべき。飼い主には他にも好きなもの、楽しいこと、色々あるかもしれないけれど、私には飼い主を大好きって気持ちだけなんだから。あっそれと粟穂も好き。粟穂はめったに食べさせてもらえないから、ごくたまに食べる機会があるとめちゃめちゃがっついてしまう。
飼い主は人間だから、色々やらなきゃいけないこともあるらしい。でも、だからって私との愛をないがしろにしてはだめ。私との間にある愛をおろそかにしてしまったら、飼い主が得られる愛はもうどこにもない、そんな気がする。心が孤独な人だから。

ケージの中を愛でいっぱいにして、飼い主を呼び続ける。そして放鳥タイムは、飼い主の手の中でやさしく頬を揉まれる。部屋中が愛に包まれる。「チチチ……かわいいね、かわいすぎるよぉ~。ちゅきだよ」また変な言葉遣い。

夜になると私のケージにおやすみカバーをかけて、「大好きだよー」と言う飼い主。分かってるよ。人間だから、やらなきゃいけない「お仕事」があったり行かなきゃいけない「会社」があったりするのも本当はね、いいよって思ってる。待ってるから。待ってる間も飼い主のこと、大好き。飼い主もきっと同じなんだよね。愛はずっと消えないから、飼い主も安心して眠ってほしい。

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