文鳥物語 雛の羽からオトナの羽に

私は文鳥。6年前、雛だった頃から少しずつ雛の羽を脱ぎ捨てて、モノクロの体になっていった時のことを思い出した。
ペットショップで「今は雛なのでまだ茶色っぽいですが、これから換羽をして桜文鳥特有のきれいな模様になりますよ」とスタッフさんに説明を受けた私の飼い主は、毎日ワクワクしながら私の羽の生え変わりを見守っていた。

私はゆっくり換羽するタイプだったみたいで、完全に大人の羽になるまでずいぶん時間がかかった。毎日じろじろ観察されても仕方ないんだけれどな、ごめんね、と思っていた。そして飼い主の手や肩、頭の上を、茶色っぽいままの体で元気に飛び跳ね、しばしば飼い主の指を引きちぎるほどの勢いで噛んだ。飼い主は「痛い!痛い!」と悶絶していて、それがちょっと面白かった。今はもうそういう力任せなことはしない。大人だから。指のさかむけは相変わらず引きちぎるけど。

最初は頭の羽の一部分が白くなった。そこで飼い主は疑問に思ったみたい。「桜文鳥の頭って、黒いよね……?」
何か月もかけて少しずつ少しずつ雛の羽を脱ぎ捨てていく私の体には、一般的な桜文鳥のようにくっきりとした模様ではなく、まだらでポヤポヤしたあいまいな白と黒とグレーの複雑な模様が浮かび上がってきていた。頬毛だけが雛のときのまま、薄茶色っぽくいつまでも残っていた。

飼い主は、あいまいなことにめっぽう弱い。自分の飼っている文鳥が、桜文鳥なのかごましお文鳥なのかでしばらくの間悩んだ。首からお腹にかけてほとんど真っ白で、桜文鳥特有の桜模様はない、とはいえごましお文鳥と言えるほどごましおらしくない。
自分の知っている枠に当てはめられないとアンバランスな気持ちになってしまうというのは人間の本当に愚かなところだと思う。飼い主、私は私だよ。なんとか文鳥っていう肩書は必要?
ブランコを全力でこいで、エサを食べて、止まり木でまったりして、水浴びの準備をしてもらったらバシャバシャやる。一応、文鳥本人は幸せにやっているんだから、飼い主も幸せにやっていくといいよ。

飼い主は私を手に乗せ、「個性があるっていいな」と言った。模様のこと?個性なんていうのも人間の価値観だけどね。でも、いいなと思って幸せでいてくれるならそう思っておいてほしいな。どうしても「なんとか文鳥」って呼びたいなら「おしゃれ文鳥」とでも呼んでね。
それ以来、飼い主は換羽のたびにほんの少しずつ変わっていく私の体の模様を毎年楽しんでいる。「今年は尻尾に白を混ぜたんだねぇ。洒落てるよ~!」だって。おしゃれ文鳥、面目躍如だ。

文鳥物語 飼い主との出会い

文鳥の雛

私は文鳥。6歳。メス。一応、桜文鳥ってことになっているけれど、体の模様はあんまりはっきりしていない。お腹の部分はほとんど真っ白で、ところどころにグレーの羽が混ざっている。

飼い主と出会ったのは私が雛だった頃。まだ全身の羽が茶色くって、飼い主はこう思ったみたい。「文鳥ってこんなほうじ茶みたいな色、してたっけ?」
ほうじ茶でもなんでもいいんだけれど、とにかく私、その日もペットショップのケージの中でまったりしていた。飼い主は最初、白文鳥を見ていたのだけれど、その白い子たちは手乗りじゃなくて、店員のお姉さんがケージに手を入れると逃げまどっていた。

私には関係のないことだと思って止まり木の上でうとうとしていたら、店員のお姉さんは「桜文鳥もいますよ。この子は餌も自分で食べられるようになっていますし、手にも乗ります。ほら」と言って、私のケージの扉を開け、手を差し入れてきた。思わずその手に飛び乗ったけれど、ケージの外に出されるのが怖くなってしまって、少し逃げまどった。
お姉さんに両手でパフッとやさしく捕まえられて慌てたけれど、「こうやって頬っぺたを撫でてあげると喜びますよ」と言って私の頬を指で撫で始めた。これをされると鳥はうっとりしてしまう。
目をつぶって堪能していたら、いつの間にか私は別の手に移動していて、飼い主が私の頬を撫でていた。なかなかいい手つき。声の調子、嬉しそうに指を動かす感じから、飼い主がドキドキと胸をときめかせているのが何となく分かった。

それから、飼い主は何か書類を確かめたりケージや餌、水浴び用の容器を手に取ったり、なんだか色々やっていた。もしかして私、あの人のところに行くの?どんな生活が待っているのだろう……そんな事を考えているうちに、小さな紙の箱に入れられた。暗い、狭い、怖い!私、今お会計されている?

箱の中で体を細くして怯えていたけれど、じきに明るい室内まで運ばれたようだった。箱から出されて、まだ細くなっているうちに、新しいケージの中に入れられた。
新しい環境に困惑している私に飼い主は「おーい、大丈夫だよ。今日から一緒に暮らそうね」と言った。ではこれからこの人が私の飼い主ということになるみたい。ちょっと不安だけれど、頬を撫でる手つきは悪くなかったから、きっと大丈夫。疲れたので止まり木の上で少し眠った。

真新しい餌入れにたっぷりのペレット、それと透明な水。部屋には日が差していて、ケージの床に敷かれた紙の上に私のうんこがひとつかふたつ。これが飼い主との生活の、最初の記憶。